仙人草の咲く庭で

犬と一緒に散策する里山スケッチ。自然界のさまざまな存在や、見えない世界へと誘われる心のスケッチ、モノローグ

マツワ 〜植物のスピリット・メディスン 第3章より〜

マツワ

「植物のスピリット・メディスン、第3章 スピリット」の中でとても印象的な老人(シャーマン)のことが書かれています。著者と同じように、私もその老人の見かけとシャーマンとしての彼の姿のギャップに驚かされ、思わず笑ってしまいました。その部分を少々飛ばしながら抜粋で紹介します。

 

【抜粋】

メキシコの西シエラマドレ山脈に、聖なる植物から人間のスピリットの癒し方を授かった、偉大なウイチョル族のシャーマンが住んでいると聞いたことがあった。彼の名前はマツワ。ドン・ホセ・リオス。

〜中略〜

 集落の中に入ると、すんなりドン・ホセの小屋に辿り着いた。ついに私の目前に偉大な人物がいた。ボロボロのシャツに腰の回りにより合わせた紐でかろうじて引っかかっている、相当な時代物の今にも崩れ落ちそうなズボンをはき、やせて、歯が無く、無精ひげをはやしたインディアン。仮にこの人物と通りですれ違っても、彼の右腕が肘の上で切断されているという事実がなければ、彼に気付くことさえないだろう。

 ドン・ホセは私と友人たちを迎えて、くつろがせようとある話をしてくれた。「去年、アメリカ人の女の子が訪ねて来た。その子の名前はマルガリータというんだが。ああ、あのマルガリータだ!ある日、その子がわしのところに来て、『ドン・ホセ、あなたにマッサージしてあげる!』と言うので、わしが『分かった』と言うと、『じゃあ、着てる物を脱いで!』ときた。わしは『ダメだ』と言った。ああ、あのマルガリータにな!」

 ドン・ホセは笑い、私は話が続くのを待っていたが、話はそこでおしまいだった。明らかに、それが一年中で一番おかしい出来事だったに違いない。老人は笑いを止めることができなかった。

 私が訪問した最初の一時間に、ドン・ホセはマルガリータの話を六回繰り返し、その度に爆笑した。明らかにここに来るのが遅すぎたのだ。その老人はもうろくしていた。

 翌朝にはドン・ホセが導くことになっている儀式が始まる。幼い子供たちのための儀式だという。彼らは神々が棲む遠く離れた山や洞窟や泉に巡礼に行けるほどまだ強くないので、シャーマンは道中の冒険の数々をチャンティングしながら、それらの場所にスピリットになって旅をするのだという。

〜中略〜

もう午後遅く、第一日目のチャンティングはまもなく終わろうとしていた。誰かが私にシャーマンが雨の神についてチャンティングしていると教えてくれた。私は光の変化に気付き、あたりを見回した。山の向こうに大きな黒い雨雲の塊があった。稲妻が近くの山頂を襲い、雷鳴が轟いていた。あっという間に豪雨が私たちを取り巻いていたが、村自体は穏やかなまま太陽は輝き続けていた。ドン・ホセはチャンティングを続けた。20分かそのくらい経ち、彼のチャンティングは終わりに近づいた。みんなは立ち上がり身体を伸ばすと、ぶらぶらと歩いて家に帰った。全員が無事自分たちの小屋に戻るやいなや、嵐が襲い村を水浸しにした。

 次の日も晴れ渡った空の下、子供たちはシャーマンが朝から晩まで歌うのに合わせてラトルを振っていた。またしても突然、雨雲が周囲の山々に現れた。前日と同様、ドン・ホセが儀式を終え全員が無事屋内に戻った直後、嵐が村を襲った。

(抜粋はここまで)

*写真の人物が、このお話に登場するシャーマン、マツワです。本を一通り訳し終えるまで、まさかマツワその人の写真があるとは想像していなかったのですが、試しにネットで探してみたらありました。確かに歯は抜けていますが、エピソードの中で描写されていたボロボロのシャツと今にも崩れ落ちそうな時代物のズボンといういでたちではなく、ウイチョル族らしい(おそらく儀式のための)美しい刺繍が施された民族衣装と、帽子を身につけたカラフルで晴れやかな姿で、本の中のマツワと写真のマツワとのギャップにも驚かされましたが、それ以上に私のインディアン繋がりの日本人の知り合い(故人)にそっくりなのには、二重に驚かされました。